交差点で信号待ちをしている景色だ。


「はじめまして、椎名巫寿さん」


そう、あの時突然背後から声をかけられた。

背の高い男の人だった。見上げるように顔を上げるとひとつの目と目が合う。ひとつしか目が合わなかったのは、その人が黒い眼帯で片目を隠していたからだ。

肩にかかるくらいの長い黒髪、長いまつ毛に縁取られた伏せ目がちな垂れ目、薄い唇。

とても整った顔立ちの人。


自らを神職だと名乗るその人は、一言二言私と喋ると人混みに紛れて消えてしまった。




テレビが消えるようにその光景がパッと消えて我に返る。

なぜ今急にこんなことを思い出したんだろう。


頭の奥がまだぼんやりしている気がして軽く首を振る。

しっかりしなきゃ、と頬を叩いた。


部屋をぐるりと見回して、最後に窓をしめ鍵をかけた。

そしてボストンバッグを肩にかけると、部屋を飛び出した。