唇を結び俯いていると、『そういえば』と嘉正くんが声を上げた。


『方賢さんに空亡の残穢を取り込むように、唆したやつがいます』


薫先生の目付きが変わった。


『それは方賢が言ったの?』

『……たしか、そうでした。"あの人"って言ってましたけど。でもその人から、空亡の残穢のありかも聞いたみたいでした』


薫先生は難しい顔で何かを考え込んだ。

まるで鋭いナイフのような空気感にみんなが息を飲む。


『か、薫先生……?』


泰紀くんが恐る恐る名前を呼べば、パッと顔を上げてにっこり笑った。


『ごめんごめんご! なんでもない、こっちの話だよ。じゃあとりあえず、今日の聞きこみ調査はお終いね。キミらまだまだ呪われてるから、しっかり眠るんだよ! あははっ、じゃあまた明日!』


いつもの調子で軽やかに手を振ると、病室から出ていった薫先生。

あの一瞬の鋭い雰囲気は一体なんだろう、と考える間もなく病室に飛び込んできた鬼の形相の禄輪さんにより最強のゲンコツを頂戴した。