私たちが鳥居で気を失い薫先生たちが駆けつけている間、社頭ではとんでもない騒ぎだったらしい。
瘴気が溢れ出ていたのかと眉間に皺を寄せたが、どうやら違った。
『そうそう、あの時本殿に須賀真八司尊《すがざねやつかのみこと》が降臨して、大騒ぎだったんだよ』
そこで合点がいく。あの圧倒的な気配は須賀真八司尊だったんだ。
あの時私がとっさに唱えたのは「神社拝詞」、御祭神さまに力を借りるための祈祷の祝詞だ。
もしかするとその声を聞きいれて、あの場に現れてくれたのかもしれない。
その事を薫先生に話せば、薫先生はとても驚いた顔で私を見た。
『神がイチ神職のためだけに降臨することなんて滅多にない。というか無い、皆無。もし巫寿の奏上を聞き入れて現れたとすれば、それは前代未聞のとんでもないことだよ』
『そう、なんですか?』
『平社員が社長に「ウチ来て〜」って言って、社長が遊びに来るようなもんだよ』
俗っぽい例えだけれど分かりやすい。
思わず吹き出せば、薫先生は呆れたように肩を竦めた。