「巫寿……っ!」
顔を顰めた嘉正くんが叫んだ。ごほっ、と咳込めば口のすみに赤い血が流れる。
夢で見た景色と重なって、心臓がぎゅっと締め付けられる感覚に陥った。
「行け、巫寿!」
その言葉に両頬を叩かれたような心地がして手足に力が宿った。
夢で見た景色とは違う。嘉正くんはあの夢で、私に「逃げろ」と行った。
そうだ。あの夢通りには行かせない。
膝の裏に力を込めて、一歩一歩と前に進む。
激しい瘴気の力に、自分が立っているのか歩いているのかも分からない。
「あああああッ! 忌々しい忌々しい忌々しい! なぜお前たちは、いつも私の邪魔をするッ!」
髪をかき乱した方賢さんの周りをまるで燃え盛る炎のように瘴気が渦巻いた。
まるで負の感情に、瘴気が寄せ集められているようだった。
周囲に溢れかえっているだけでも私たちは身動きすらままならないのに、あんなにも身体中に集まれば想像を絶する痛みや苦しみがあるはずだ。
「方賢さんもうやめて、このままだと方賢さんもっ」
「黙れ! 死ね、死ね、死ねッ!」