「ああ、大人しく倒れて死ねばいいものを」


憎しみの籠った声が忌々しそうに私の名前を呼んだ。

胸の前で手を合わせた方賢さん。


「ムゾや()んだかの ()まれ稲刈(いねか)りが……」


地を這うような低い声、その声が紡ぐのは呪歌だ。

まともに受ければ来光くんのように呪いを被ってしまう。

けれどその呪歌に対応する術を私は知らない。

このままじゃ、私まで動けなくなってしまう。


く、と歯を食いしばって御札を強く握りしめる。




(われ)ぬや奥山(おくやま)に (きり)(また)なりが!」


最後の一言が読まれるのとほぼ同時に、エネルギーを凝縮させたようなどす黒い塊が、一気に放出される。

くる、と身構えたその瞬間、別の声が響いた。



「だまが歌うたいや 歌やりばきくしが 鶏ぬ卵なてが しむるいちゃまし……ッ!」


その声の主を振り返った。


苦しげに顔を歪めた嘉正くんが、頭だけを起こして叫ぶようにそれを唱えていた。

詞は呪歌と同じ調子だけれど、唱える声は陽だまりのように心地よい。


その凝縮された呪いの塊は、私の目の前でパン!と弾け飛んだ。

光の粒となり空気中に溶けるそれに、嘉正くんがその呪いを霧散させたのだと気が付く。