着替えを済ませて居間へ向かうと、禄輪さんが眼鏡をかけて何かを読んでいた。
本みたいだけれど、よく歴史の教科書なんかで見るような紐で閉じられた和紙の書物だ。
私の気配に気がついたのか、ふっと顔を上げた禄輪さん。
「おはよう、巫寿」
「おはよう、ございます」
「それは中学校の制服だな。もう15歳だったか」
感慨深そうにしみじみと呟くその姿は、お兄ちゃんが私の卒業式や入学式に来た時の顔とよく似ている。
なんだか背中がこそばゆくて慣れない。
禄輪さんの向かいにはもう食事の用意が整っていて、きっとトウダさんが用意してくれたんだろう。
座布団の上に座った。
膝の上でぎゅっと拳を握る。
食べ始めない私を不思議に思ったのか禄輪さんは「どうした?」と首を傾げた。
「あの、私、これからどうしたらいいんでしょうか……? お兄ちゃんのことも心配だし、お家がどうなってるのかとか、学校とか……」
ここがどこかも分からないから、一人で帰ることもできない。
家はたぶん、先日の騒動で荒れたままだし、きっと玉じいも心配しているはずだ。
学校のこともそう。
あの日、担任の先生や恵理ちゃんから心配のメールが届いていた。
試験も途中で抜け出してしまったから、これからどうすればいいのか聞かなくちゃいけない。