少年、一方賢は他の人間とは違う力を持っていた。触れた者の怪我や病気を癒し、治す力だ。
その力に気がついたのは彼が三つの時だった。
近所の神社で祭りが行われる前日、村の若衆が櫓を組み立てている時に足を滑らせて頭を強く打ち額を割ってしまう事故が起きた。
村落から麓の病院までは車で2時間、青年は息も浅く、病院へ連れて行っても間に合わないだろうと思われた。
家が隣でとりわけ青年と親しかった方賢は、血だらけで横たわる青年に泣いてすがったのだという。
そんな方賢を宥めようと、青年はいつも方賢が怪我した時に自分がやってあげていたように「痛みが飛んでいくおまじないをかけてくれ」と方賢の気を紛らわした。
泣きじゃくりながらその頭を撫でた方賢は「いたいのいたいの、とんでいけ」と繰り返す。
するとたちまち、青年の額の傷が塞がっていったのだ。
周りにいた大勢の大人たちは突然の出来事に唖然とし、何よりも死まで覚悟した青年が一番驚いていた。
町医者が駆けつけ血だらけなのにぴんぴんしている青年に腰を抜かし、呼びつけた救急隊員は血だらけなのに呑気に世間話をする姿に仰天した。
やがて体が何ともないことを確認すると、二時間かけてやってきた救急車はまた麓へ戻って行った。