目を瞬かせた少年はすぐにぱっと笑って「いいよ!」と老婆に駆け寄る。
傍に膝を着いて座ると、老婆の膝にその小さな両手をそっと手を当てて目を瞑った。
「いたいのいたいの、とんでいけ」
まるで鈴がなるような、春の日の木漏れ日のような優しくて暖かい声が言葉を紡ぐ。
いたいのいたいのとんでいけ、と何度か繰り返すうちに少年は手のひらがほわんと温かくなるのを感じた。
その熱がすうっと老婆の膝の中へ入っていく感覚を感じ取ると「どう?」と老婆の顔をみあげる。
「ああ……ほんまにこれは不思議な力や。あんなに痛かったのが、まるで熱が引くみたいにすぅっと引いて行ったわ」
憑き物でも落ちたように安心した顔で少年の頭を撫でた。
「山田のおばあちゃん、お茶入れましたよ……って、方賢帰ってたならただいまくらい言いなさい」
「僕、言ったよ」
「そやな、方賢ちゃんはおっきい声でただいまぁって言うてたな?」
味方をしてくれた老婆に少年は頬を赤らめて抱きついた。
「善子さん、方賢ちゃんはほんまにすごい子や。神様に愛された子やわ」
言い過ぎやわ、と肩を竦めた善子は、満更でもない顔で笑った。