粘土のように身体中にねっとりまとわりついて少しずつ隙間を埋めていき、思うように息ができなくなっていく。
「何をしているんです! ここは危険です、早く逃げなさい!」
方賢さんがそう叫ぶ。
「嬉々先生がここの封印を破ろうとしているんです、もう私では抑えられない!」
一瞬、意味がわからず動きが止まった。
少し間を開けて「え……?」と聞き返す。一歩前に出たそのとき、嘉正くんが咄嗟に私の二の腕を掴んだ。
困惑しながら見上げれば、嘉正くんが険しい顔で方賢さんを睨みつける。
「どういうことですか」
見たことの無い怖い顔でそう問いただす。
「空亡の残穢です! ここに封印されている残穢を、喜々先生が狙っているんです!」
二度目の「え」という声は、困惑よりも恐怖の色が強かった。
自分達が思い浮かべていたことよりも、はるかに恐ろしいことが起きているということがその瞬間にわかった。
嬉々先生ではなかった。
全ての犯人は嬉々先生ではなかったんだ。
「なぜ、それを知っているんですか」
そう問うた嘉正くんの声も震えている。