「────っ、!」


ガシャン、と激しい音をたて椅子が倒れた。目を見開いてそれを見つめる。

服の上から抑えた心臓はマラソンを走った後のようにばくばくと高鳴っていた。


嫌な汗がこめかみをつたった。


「ゆ、め……」


そう呟いた自分の声は震えている。

夢、そうだあれは夢だ。夢だから体が動かなかったんだ。現実は今、あれはただの夢だ。


頭の中で何度もそう繰り返すことで、やがて手の震えが収まった。


肺の中の空気を全部吐き出す勢いで深く息を吐けば、体の力が抜けてへろへろとその場にしゃがみこんだ。


「嫌な夢……」


いや、それ以上だ。

みんながあんな目に会う夢を見るなんて、夢とはいえ不謹慎すぎる。



見た景色や感覚があまりにもリアルで、まだ鳥肌が立っている。