言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー




「……なあ、方賢さん遅くないか?」


その一言に皆がはっと顔を上げた。

言いつけられた罰則の文殿の書棚整理、手分けしながらそれに取り組みつつ、今朝から方賢さんを見守っていた。


『みなさん、私はちょっと御手洗に。逃げ出さずに取り組めば最終日くらい遊べるように計らってあげますから、真面目に取り組むんですよ』


そう行って文殿を出ていったのは、確か三十分前の出来事だった。



確かに遅いね、そう言おうと口を動かすも、自分の声は音にならず口がぱくぱくと動くだけだった。

それだけでなく、自分の手足のはずなのに、まるで第三者に操られているかのように勝手に手足が動き出す。


慌てて文殿を飛び出す皆に、少し遅れをとって走る私の体。


「嬉々先生につけた来光くんの形代は?」


そう言ったのは紛れもなく私の声なのに、私はそれを言おうとはしていないし意識もしていない。

まるで誰かの体の中に意識だけ入ったような感覚だった。



どういうこと?

何が起きてるの?


これは確かに私の体のはずなのに、言うことが聞かない。まるで決められた動きを辿っているような感覚だ。