ああ、分からないことばかりだ。
「────ん、来たな」
唐突に禄輪さんがそう言って立ち上がった。思わずびくりと肩が震える。
「ああ、怖がらなくていい。私の知り合いだ」
禄輪さんはそう言って私を安心させるように笑いかけた。
「一人で待つのが怖いなら、一緒に来るか?」
そう尋ねられ、俯くように頷きそっと立ち上がった。
「録輪さん、誰が来たんですか……?」
「巫寿が住んでいる地域を統括している神主だ」
「どうして、禄輪さんに会いに来たんですか?」
「昨晩の魑魅の騒動で、巫寿の住居にまだ残穢が残っているんだ。その処理を任せたから、その報告だろうな」
「残穢……?」
聞き返すと禄輪さんは苦笑いで頬をかく。
「説明が難しいな。まあ、妖の残り香のようなものだな」
説明されてもやっぱりよく分からなくて、それ以上聞くのも申し訳ないと思って口を閉じた。
玄関まで来ると水色の袴を履いた若い男性と、朱色の袴を身につけた私と同じ歳くらいの女の子が上着を脱ぎながら待っていた。