「巫寿さん、できる所までで良いから訳してみなさい」
名指しされて少しだけドキリとするも、ゆっくり立ち上がると小さく息を吐いてノートの文字を追った。
「えっと……言葉に出して申し上げますのも恐れ多いまねきの社の御前を拝し、謹んで申し上げます。神々の広く厚い御恵みを勿体無く思い、高く尊い神の教えの通り、天皇陛下を仰ぎ尊び、素直で正しい真心に依って、人の道を踏み外すことなく、目分たちが、従事する勤めに励むことが出来ます様に、また、家が栄え、家族も健康で世の為、人様の為に尽くさせて下さいませと、謹んで申し上げます────です」
恐る恐る顔を上げると、満足げな先生と目が合った。
「よく勉強してるな。素晴らしい」
そう言われホッと胸をなでおろし椅子に腰かけた。
自分でも驚くほどスラスラと訳すことができて、4月から必死になって自習してきたことが着実に身に付いてきているのだと実感する。
やったね、と嘉正くんが親指を立てて笑う。へへ、と肩を竦めてグーサインで返した。