「どの社も昼は表の鳥居から表の社へ人間だけが、夜は裏の鳥居から裏の社へ妖のみが、と決められたその時間に決められた者しか社へ立ち入ることは出来ない……というのは四月に"社史"の先生から習っただろう。その縛りを解いて全ての生き物に社を解放するのが開門祭一日目の"開門の儀"。この神事は開門祭のほかに、夏越の祓、年越の大祓、歳旦祭で行なわれるもので────」
6時間目の「神職の作法と心得」の授業、開門祭も近いということで開門祭について習っていた。
必死にノートを取っていると、斜め後ろから「ぐごっ」といびきが聞こえた。
みんなして振り返ると、その声のいびきの主はカバンを枕に気持ちよさそうに眠る慶賀くんだった。
ため息をついた先生が歩み寄ると、慶賀くんの頭を丸めた教科書でぱこんと叩いた。
「うわっ!」
文字通り飛び起きた慶賀くんに、嘉正くんと顔を見合せてくすくすと笑う。
「そんなに俺の声は心地いいか?」
眠気まなこできょろきょろ当たりを見回した慶賀くんはその一言にびくりと肩をふるわせる。
「あ、あの、それはもう大変心地よい言祝ぎで……」
「それはどうも」
へへへ、と笑った慶賀くんは「すみません」と頭を下げて座り直した。
「あ、そういえばお前ら。開門祭の一日目の開門の儀には強制出席だって、薫先生から聞いたぞ」
ふと思い出したように先生がそう言った。
その瞬間、えーっとみんなが嘆く声が教室に響く。