私たちは顔を見合せた。
確かにそうだ。
もしそれが事実では無いのなら、否定すればいい。それに、もしその噂が本当だったとしても、それを隠したいのならば否定すればそれ以上は私たちは聞けなくなるわけだ。
けれども薫先生は、「はい」とも「いいえ」とも言わなかった。
肝心なところは全てはぐらかして、私たちの質問に対して質問で返してきた。
「それに、最後に言ったよね。"掻き回さないように"って」
「でも、それのどこが変なんだ?」
「だって、俺たちが言った言葉を信じてないなら、掻き回すな、なんて言わないでしょ。まるで今の事態を把握している上で、首を突っ込むなって言ってるみたいだ」
ばくん、と心臓がはねた。
それは皆同じだったようで、目を見開いて固まるみんなの顔も同じように青かった。
何かが、不穏な何かが動いている。
「で、でも薫先生は全部わかってるんでしょ? なら任せれば大丈夫じゃないかな」
来光くんがすかさずそう口を挟む。
「いや、それも分からない。"掻き回すな"って言い方は、全部わかった上で関わるなって言ってるように捉えることもできるってだけだから」