今の、今のって……。
息を殺して、棚の影からほんの少しだけ顔をのぞかせる。
不気味な緑色の光に照らされたその横顔に、息を飲んだ。
「私が何を言いたいか、よく分かっているはずだ一《にのまえ》方賢」
不揃いな肩までの長さの黒髪、死人のように白い肌に、光をともさない黒い瞳。
それは紛れもなく嬉々先生だった。
「な、何を仰っているのか────」
非常扉に押し付けるように胸倉を掴まれているのは方賢さんで、怯えたように顔を引き攣らせていた。
「白を切るか? まあ今はそんなことどうでも良いだろう」
「わ、私は本当に! な、何を……言っているのかさっぱり」
次の瞬間、嬉々先生は己の袖を肩までたくしあげた。
目を見開いた。
その腕が、手首から肩までどす黒い色に変色していたからだ。それは先程見た方賢さんの腕と同じだった。
「お前が跳ね返したこの呪いは、私がかけたものだ」
嬉々先生はその腕を方賢さんの首に押し付ける。
方賢さんは苦しそうに顔を顰めた。
なに……?
一体どういうこと?
嬉々先生が、方賢さんに呪いをかけたの?
でも、あれは禁書に触れたからだって……。