方賢さんは目を瞬かせた。
「巫寿さんがご自身で作られたんですか?」
「はい。この前部活動見学で究極祝詞研究会へ行った時に」
はあ、と感心したように息を吐いた。
腕お借りしますね、そう言って方賢さんの手を取った。
禍々しい色をした腕は驚く程に冷たく氷に触れているようだった。それでいて岩でも持ち上げているかのように重さがあって、この呪いの威力が相当なものなのだと実感する。
上手くいく可能性はほぼゼロだけれど、周りの靄くらいは祓えるかもしれない。
すう、と息を吸い込んで、胸の前で柏手をうった。
「懸けまくも畏き大国主神《おおくにぬしのかみ》よ。恐み恐み謹んで吾大神《あがおおかみ》の大御稜威《おおみいづ》を蒙《かがふ》り奉る────」
次の瞬間、静電気が走ったような音が文殿に響いた。
う、と呻き声を上げた方賢さんが腕を押え尻もちをつく。
「方賢さんっ……!」
慌ててしゃがみこみ顔をのぞき込むと、方賢さんは目を丸くして自分の腕を見つめていた。
「祓えて、ます」
「え……?」