気まずそうに視線を逸らした方賢さんは苦笑いをうかべ、隠した反対の手で頬をかく。


「すみません、醜いものを見せてしまって」

「その腕、どうしたんですか……！」


もう一度そう尋ねれば、観念したように困ったように眉を下げてゆっくりとまたその袖を捲りあげる。

は、と息を飲んだ。


手首から二の腕辺りまでの皮ふが、どす黒く変色していたからだ。

よく見れば、腕の周りに紫暗色の靄がかかっている。その靄には見覚えがあった。


「呪いです」


やっぱりそうか。

詞表現実習の授業でまだ力のコントロールができていなかった時、特別課題として薫先生から呪われた石を渡されていた。

その石の周りにかかっていた靄と同じなんだ。


「どうして呪いなんか……」

「君たちに触らないように言い付けた棚があるでしょう？　あれは禁書の棚と言って、危険な祝詞や強い呪いに関する書物などが纏められている棚です」


確かに、罰則が始まる前に方賢さんから「1番奥の棚は触れないように」と何度も言い聞かされていた。

私達も任されたところ以外の掃除をする理由もないので、わざわざ奥まで行こうとは思わなかったけれど、そういう訳だったんだ。


「そこにある書物は、呪いに関するものだけでなく、書物自体が呪わている場合もあるんです。触れることで読者に呪いを施す細工がされていることもある……。丁度先日、整理をしていた時にうっかり触れてしまってこの有様です」


情けないです、と方賢さんは肩を竦めた。