「そういえば、方賢さんって神楽部のOBだったんですよね」
「ええ、そうですよ。これでも部長だったんです」
本棚と本棚の狭いスペースを抜けながら、方賢さんの後に続く。
「神話舞にも出たんですよね? すごいです」
「また随分昔のことを……。たった1度だけですよ、神修を卒業した年に端役で出ただけです」
苦笑いを浮かべた方賢さん。
「それを言うなら、学生でありながら選ばれたあなた方の方が何倍も優秀ですよ」
「先輩方は凄いなって思うけど、私は全然なんです。明らかに下手くそだし、選ばれた理由が分からなくて」
最後の方は情けなくて声が小さくなる。
方賢さんには聞こえなかったのか返事はなかった。
やがてひとつの本棚の前で足を止めた。背表紙のタイトルからして、呪力関連の棚なのだとわかった。
「授力関連はここです。巫寿さんでもわかりやすいものだったら……ん、あれとか良さそうですね」
そう言って本棚に手を着いて背伸びをした方賢さん。1番上の棚のにあった一冊の書物の背表紙を掴んで引っ張る。
その瞬間、白衣《はくえ》の袖がはらりとめくれた。
「……っ! 方賢さん、その腕……!」
思わずそう声を上げれば、方賢さんは素早く手を下ろして隠すように袖を引っ張った。