究極祝詞研究会の活動場所は今はもう使われなくなった空き教室を使用しているらしい。
「こんにちは」と中へ入った来光くんに続いて教室へはいると、四方の壁が天井まで本棚になっていて古い巻物がびっしりと詰め込まれていた。
こんにちはー、と緩い返事が返ってきて、誰も私を気に止める様子もなく自分の目の前のノートに齧り付いている。
「いつもこんな感じだから。ほとんどが自分か祝詞にしか興味無い人達なんだよね」
空いている席に私たちを案内した来光くんは机に齧り付く一人の男性に話しかける。
丸メガネに目にかかるくらいの長いもじゃもじゃの髪が印象的な男の人は、浅葱色の袴姿から神修の先生なのだと分かった。
立ち上がったその人は私たちの元へ歩み寄る。
「えっと、椎名巫寿さん?」
「あ、はい。部活見学でお邪魔してます」
「見ての通り見学するにはなんの面白みもない部活ですが、どうぞゆっくりして行ってください。祝詞作成は己との戦いですからね、はい。巫寿さんにもその孤独の先にある面白さを実感して欲しいものです。そして正しい詞の美しさに思う存分酔いしれて下さい」
「はぁ……」
早口で捲し立てるようにそう言うと、また席に戻りノートに顔を埋めた。
困惑気味に来光くんを見ると、彼は「変わった人でしょ」と肩を竦めた。