慶賀くんが作った黒い粉の正体は、爆発性のある火薬だったらしい。
あとから聞いた話だが、打ち上げ花火の中に使われている割火薬というものを知らないうちに精製していたんだとか。
もちろん火薬なのだから火のついたマッチを近づければ燃える。
爆発性があるなら爆発するのは当たり前で────。
「亀世!」
「だって後輩に経験を積ませるのは大切なことでしょー、豊楽センセ」
焦げてぷすぷすと煙をあげる前髪を弄りながら悪びれずそう答えたのは、小柄な女の先輩だった。
火に触れた割火薬は例外なく激しく炎をあげて爆発した。
咄嗟に豊楽先生が庇ってくれたので私は無事だったけれど、目の前で爆発した慶賀くんと亀世さんは少しだけ髪が燃えたようだ。
焦げたテーブルを雑巾で拭いてみる。二往復しただけで染めたように黒くなった。
「新薬に挑戦する心意気は評価する、だが試す前に私に聞きなさい。毎回慶賀と亀世に調薬室を破壊されていたら、部費がいくらあっても足りん」
毎回って、そんな頻度で調薬室を破壊しているんだろうかこのふたりは。