馬に乗るまでは良かった。なんなら歩き出しも順調だった。

少し不安定な背中は怖かったけれど、吹き抜ける心地よい風と一定の揺れに目を細めた。


「どう?」

「うん、すごく気持ちいい! この子、本当に大人しいね。なんて名前なの?」

「ハヤテだよ。呼んであげて」


ハヤテ、漢字で書けば疾風だろうか。

ひとたび走り出せば、この子もきっと風のように駆け抜けるんだろうな。



「ハヤテ、ありがとう。ハヤテは優秀なんだね、全然怖くない」


そう言って首筋を撫でると、ハヤテはぶるると楽しそうな声で鳴いた。


「返事した? ハヤテは賢いんだね」


そのたてがみを手ぐしでそっと梳いてやったその時、ハヤテが一際大きく鳴いて前足を持ち上げた。

ひっ、と息を飲んで必死にその首に捕まる。


前足を地面につけたハヤテは、本当に同じ馬なのかと思うほど興奮した状態で土を蹴って駆け出した。


「ハヤテ! 戻れ!」


嘉正くんの声がはるか後方で聞こえて、手綱を離してしまったのだと気がつく。

そうなると、この走り出したハヤテを止めるのは私しかいないわけだけれど、私はその術を私は知らない。