運動場へ入った私たちは、嘉正くんに呼ばれて神馬舎に歩み寄る。
「すみません……こんな僕が流鏑馬部の部長です……綿矢勇逞《わたやゆうてい》です……すみません……」
嘉正くんに励ますように肩を抱かれてそう頭を下げたのは、紛れもなく先程私たちを罵倒したあの人だった。
それにしても、手綱を握ると性格が変わるって。
「すみません……こんな僕が勇ましく逞しいなんて名前で……」
「あ、いやそっちじゃなくて」
思わず冷静にそう突っ込んでしまった。
「まあまあ部長、それは置いといて。高等部に編入してきたクラスメイトの巫寿です。部活動見学してる所なんですけど、神馬に乗せてあげてもいいですか?」
「ええ、それはもう、もちろん。神馬も僕なんかより、きっと巫寿さんを乗せる方が嬉しいんですよ……」
「そんな事ないですよ。じゃあ巫寿、行こうか」
勇逞さんの根暗さもなかなかだけれど、嘉正くんのサラッと流すスキルもなかなかだ。
こっちこっち、と手招きされて神馬舎の中へはいる。
振り返ると残された勇逞さんが顔を押えてしくしく泣いていた。



