言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー



神楽殿はいつも並べられている椅子が撤去されて、長机とパイプ椅子が並べられていた。

部屋の隅には積み上げられたダンボール箱や、ハンガーラックにかけられた衣装、大道具に小道具と、文化祭の前日みたいにたくさんのもので溢れかえっている。


富宇先生が手招きしているのが見えて、私たちは歩み寄った。


「良かった、みんな間に合ったのね。ごめんなさいね、うっかり顔合わせのこと伝え忘れてしまったの」

「しっかりしてくれよ富宇先生〜」


なあ?と瑞祥さんに話を振られて笑って肩をすくめる。


「あら、もうすっかり仲良しさんなのね。さ、もうすぐ始まるから座って頂戴」


そう促され、私たちは並んでパイプ椅子に腰を下ろした。

ロの字に配列されたテーブルに続々と神職さまたちが座り始める。

全員席に着いたところで、暄鵲《けんじゃく》禰宜頭が立ち上がり話し始めた。


話を聞きつつ、席に座る人達の顔を見る。


一番真ん中にいる白紋の袴を履くおじいさんは、朝拝でいつも祝詞を奏上しているのでよく知っている。

まねきの社の神主、橋渡《はしわたし》瑞雲《ずいうん》宮司だ。

まねきの社の宮司は神修の学長も兼任していて、神職奉仕報告祭で学長挨拶の時にも前に立って挨拶をしていた。

とても穏やかで上品な人というイメージが強いけれど、慶賀くんいわく「キレるとやばい」らしい。


あんなに温厚そうな人を怒らせるレベルの何をしたのかが気になるけれど、怖いので深追いはしなかった。