神楽殿のそばまで来ると、たくさんの神職たちが裏口から慌ただしく出入りしている姿が見えた。
それだけたくさんの人が関わる大切な神事なのだと改めて思い知り背筋が伸びる。
「聖仁さん、あの神職さんが持ってる大きな弓はなんですか?」
「あれは萬知鳴徳尊が背にしょってる弓を模倣したものだね。ほら、あっちは須賀真八司尊《すがざねやつかのみこと》の懐刀だ。筆を懐刀に変えたっていう神器だよ」
「顔合わせのあとに衣装や小道具を試してみるんだろう」
大掛かりなんだなぁ、なんてぼんやり考えていると、人気の少ない本殿と神楽殿を結ぶ朱い太鼓橋のところに誰かが立っているのがわかった。
浅葱色の袴の男性はよく知っている顔だ。
「あそこに、方賢《ほうけん》さんの隣にいる方は誰ですか?」
白髪混じりの灰色っぽい髪に、銀縁の眼鏡をかけた男性。
紫色に紫紋の入った袴は二級上の神職から身につけられる袴だ。
「江國《えくに》暄鵲《けんじゃく》禰宜頭《ねぎかしら》だよ。まねきの社の禰宜を統括する人だ」
禰宜頭、というと禰宜の禄輪さんよりも上の立場の人ということだ。



