皆は凄く嬉しいみたいでずっと浮き足立った雰囲気だけど、先生をしている禄輪さんはなんだか不思議だ。
「課題出来たのか?」
「もうばっちり!」
みてみて、とプリントを差し出す慶賀くんに、禄輪さんは苦笑いで落ち着けと促す。
今日の基礎祝詞作成は短い祝詞を創作するグループワークだ。予め決められた三つの言葉を使って旅の安全を祈願する祝詞を作る。
一から祝詞を作るのも神職の仕事のひとつだ。
「……懸《か》けまくも畏《かしこ》き饒速日命の大前《おおまえ》に恐《かしこ》み恐《かしこ》み白《もう》さく。なるほど、饒速日命か」
禄輪さんは、私たちがプリントに書いた祝詞を読み上げ、顎に触れながら「ふむ」と唸る。
「饒速日命は航空にご利益のある神だな。空路での安全祈願ならこれでも良いが、今回は猿田彦命《さるたひこのみこと》か日本武尊に奏上するのが良いだろう」
そう言われて日本神話の教科書を開く。猿田彦命と日本武尊を索引で調べて開けると、「道の神」という記載があった。
なるほど、旅の安全祈願だから道の神様にお願いするのがいいんだ。