全く練習をしていなかったふたりは、早朝から龍笛の練習を始め皆が小鳥の断末魔のような音色に叩き起された。
寮監の神職さまにこっぴどく叱られたはずなのに、懲りずに通学中もこうして練習し続ける。
確かに周りを見てみれば、皆が慌てた様子でたたらを踏んで靴の裏を見ている。
「いいよなぁ嘉正は。生まれつきなんでもそつなくこなせて」
「そうだそうだ! 宜家に生まれただけでも勝ち組なのに、勉強も出来て面倒見もよくて、優男でしかも顔も悪くないしさ〜」
「べつにそんなんじゃないよ」
曖昧に笑った嘉正くん。
隣を歩いていた来光くんにコソッと話しかける。
「嘉正くんのお家って、そんなに凄い家柄なの?」
「うん、超名門だよ。この界隈でも名門って言われる家系はいくつかあるけど、その中でも宜家はとりわけね」
へえ、と目を丸くして先を歩く嘉正くんの背中を見る。
同い年にしては大人っぽく落ち着いていて、面倒みも良くて優秀な嘉正くん。
やはりそれなりの理由があったんだ。
「あ」
来光くんがそう呟いて「あれ見て」と先を指さす。
寮から社頭へ続く石階段の下から、鬼の形相をしたまねきの巫女さまがかけ登ってくるのが見えた。