「空亡の、残穢……?」

「ああ。本庁の人間が事故現場を調べたから、間違いないだろう」


言葉が出てこなかった。

私たち兄妹から両親を奪った空亡、そして次は私からお兄ちゃんを奪おうとした。

恐れなのか、怒りなのか、胸の中を激しい感情が渦巻いて言葉が出ない。


「花束、このままじゃ直ぐに枯れてしまうな」


私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた禄輪さんは、花瓶と花束を持ってそっと病室を出た。



ベッドのシーツを強く握り閉めれば、頬を涙がつたう。握る拳が小刻みに震えた。


どうして。

どうしてッ!


なぜ私はいつも何も出来ず守ってもらうことばかりなんだろう。なぜ私助けてもらってばかりなんだろう。

何も知らなくて弱くて臆病で。

奪われることばかりで、大切なものすら守れない。弱くて未熟で非力。



もしも両親のことをもっと知ろうとしていれば、お兄ちゃんのことを知ろうとしていれば、自分の力のことを知っていれば。

私が嘉正くんのようにたくさんの祝詞を知っていれば、少なくともお兄ちゃんはこうはならなかったはずだ。