1ヶ月ぶりにお兄ちゃんの病室までを歩く。
病棟が集中治療室から一般病棟に変わったらしい。先導してくれる禄輪さんの背中を追いかけた。
お兄ちゃんの病室は六人部屋の窓際だった。柔らかい日差しが差し込む室内はとても心地よい。
締め切られた薄緑色のカーテンをそうっと開ける。
「祝寿お兄ちゃん……?」
お兄ちゃんは変わらず、ベッドの上で深い眠りについていた。
分かってはいたけれど、その姿に泣きたくなる。
禄輪さんに促されてベッドのそばに歩み寄った。
顔にあった酷い痣や切り傷は綺麗に治っていた。沢山繋がれていた管も今は点滴だけだった。
「全然お見舞いに来なくてごめんね」
そう言ってテーブルに花束を置く。花瓶にはまだ綺麗に咲いている季節の花が活けられていて、禄輪さんは約束通りこまめにお兄ちゃんの様子を見に来てくれていたらしい。
禄輪さんだって忙しいはずなのに。
「祝寿は若いからな、見える傷はすぐに治ったみたいだ。ただずっと意識だけが戻らないらしい」
「そう、なんですね」
お兄ちゃんの顔を見た。
まるでお昼寝をしているみたいに、安らかな寝顔だ。
「巫寿、大事な話がある」
真剣な顔をした禄輪さんに首を傾げる。
禄輪さんが目を伏せて、お兄ちゃんの頬を撫でた。
「……祝寿を襲ったのは、空亡の残穢を食った妖だ」
ばくん、ばくん、と心臓が耳の横にあるくらいうるさい。喉の奥が乾いて、両手がガタガタと震える。