いい質問、と指を鳴らした薫先生。


「一箇所に集めると何が起きるか分からないから、全国各地の社に保管されているよ。その場所を知っているのは保管先の社の禰宜以上の神職と本庁の上層部だけ。定期的に本庁の人間たちが、祓おうと躍起になってるみたいだけど、ひとつも成功したことは無いね」


12年だ。

空亡が自分を八つ裂きにして12年もの歳月が過ぎたと言うのに、空亡の欠片ですら敵わない。

それだけ強大な敵だった。



両腕を抱きしめた。


「まあ、そんな感じなので、皆も偶然残穢と対峙した場合は、死に物狂いで祓って回収するようにしてね!」

「出来るかよッ」


そんな泰紀くんのつっこみで、みんなの表情が少しだけ柔らかくなった。

幾分か空気が明るくなって、肩の力が抜ける。




「まあ、もしそんな場面に遭遇したら、お前らは一目散に逃げなよ。知ってる祝詞を片っ端から奏上して、自分の身だけを守ることを考えて。間違っても戦おうなんて思っちゃダメだよ。お前らは、死ぬな」

「戦おうなんて考える前に逃げ出すよッそんなおっかない妖!」


大袈裟にぶるぶる震える慶賀くんがそう叫べば、みんなは声を上げて笑った。

私も笑いながら、なにか胸に引っ掛かるものを感じていた。