「ずっと気になってたんですけど、八つ裂きになった残穢はどれくらいあるんですか?」


嘉正くんの質問に、薫先生は顎に手を当てて考え込む。


「正確な数は誰もわかっていないけど、一応散った残穢は154個って言われてる。それから色んな神職が捜索に当たったから、もう少し減ってると思うけど」

「そんなに……」


戸惑いを隠せない皆がお互いの顔を見合う。


154。

その数字の異常さに鳥肌が立った。

そんなにまで自分を切り刻んで、どうしてそれほど生き延びたかったのか。


「残穢は単体で動くことは出来ないから、そのほとんどがほかの妖に食べられる。そして、残穢を食った妖が、空亡の力の一端を手に入れるって訳なんだけど……」



耳が大きく鼻が長い三本足の妙な生き物の腹の中に、小さな四角を書き込む。

話の流れからして、多分なにかの妖だろう。


四角から矢印を引っ張って「残穢」と書き記された。


「単純に考えて、残穢ひとつの戦闘力は空亡の154分の1だ。数字だけ見たら容易そうだけど、現役の禄輪のおっさんが寝ず食わず休まず三日間戦ったらやっと一太刀あびせれるくらいだね」

「そんなに……!?」

「そんなになんだよ」


現役の禄輪さんですら、手こずるような相手。

まだ何となくでしか分かったいなかった空亡の強さが、容易く想像できてしまった。