「駄目だ。もう無理だ」


いよいよ夕飯の白ご飯をおかわりが一杯だけになった泰紀くんが遠くを見つめてそう言う。

心做しか頬が痩けて、いつも自慢していた筋肉も落ちてほっそりした気がする。


「僕、早く学校が始まって欲しいって生まれて初めて思った。あはは」


本人は冗談のつもりで言ったらしく笑ってみせるが、その声には張りもなければ力もない。

死んだ魚の目で、今日のメインの鰆の塩麹焼きをつついている。


「こんなことなら、最初から潔く諦めればよかった」


すん、と鼻を啜った慶賀くん。


「ほんとだよ全く。俺の可愛い狐さんたちを困らせないでよね。あははっ」


思わぬ第三者の声にみんなが振り返った。


「たっだいま〜。薫センセイが沖縄から帰還したよ〜いぇい!」


ダメージジーンズに白いタンクトップとアロハシャツ、サングラスにクラッチバッグを片手に持った姿の薫先生がピースサインを作ってそこに立っていた。

心做しか日焼けして肌が黒くなった気がする。


「めちゃめちゃ旅行楽しんでんじゃねえかッ!」


泰紀くんの鋭いツッコミが入る。


「不本意だなぁ、仕事だよ仕事。あ、これみんなへのお土産、紫芋タルトね。クジラと泳いだ写真みる?」


嘉正の隣の空いた席に据わった薫先生は楽しそうにスマホをいじって、クジラと泳いだ写真を披露する。