「こうなれば、隠れるぞ」

その日の夜、怒りに任せて唐揚げにお箸をぐさりとさした慶賀くんが据わった目でそう言う。


「でもどこに? いつも隠れても見つかっちゃうじゃん」

「確かに成功したことないよね」


そう言う来光くんと嘉正くんに、「ふふふ」と不敵に笑う。


「豊楽先生の薬品棚から、拝借してきたこれがある」

「お前はまた馬鹿なことを……」


頭を抱える嘉正くんに、知ったことかと慶賀くんはポッケから乾燥した草を取り出した。

なにそれ、と皆が怪訝な顔をする。


「茅《かや》だよ茅。蓑に使うやつ。しかもこれ、ただの茅じゃない、天狗の隠れ蓑に使われた茅だ」

「天狗の隠れ蓑?」


聞いたことの無い単語に聞き返す。


「天狗が使ってる雨具だよ。天狗の妖力が移って蓑に姿隠しの効果が現れることがあるんだ」



へえ、と目を丸くする。

姿を消せる蓑ってなんだか面白そう。


「でもそれ、ひと握り分くらいしかないじゃないか」

「この乾燥した茅一本につき、一分間姿を隠せる効果がある。だからみんな、明日はこれを羽織の裏に縫い付けて、コンちゃんズが現れたら身を隠すんだ!」

「すげぇっ!」

「だろ!? 名案だろ!」


大盛り上がりの泰紀くんと慶賀くん。

はい、巫寿の分! と渡された一掴みほどの茅を明かりにかざす。


そんなに上手くいくのかな。

同じことを思ったらしく、「そんなに上手くいくのかねぇ」と嘉正くんが呆れたように息を吐いた。