鈴の音が響き渡る。まるで空気を洗い流すような清廉な音色だ。

靄は暴れ回るように激しく形を変える。まるで竜巻のようなそれは、うめき声を上げながら部屋の中を暴れ回った。

カーテンがレールごと外れて宙を舞い、テーブルは壁に叩きつけられる。唯一家族で撮った写真を入れた思い出の写真立ても、父の日にお兄ちゃんに渡した金メダルも、誕生日にもらったぬいぐるみも、何もかもにヒビが入った。

両腕で頭を覆い叫んだ。

「もう、やめて……っ!」


喧騒が一瞬止んだ。男の声が明朗に響いた。


()むやけく(なご)やかに(すず)しく鳴り響く鈴の音に降り来たり()伊弉諾伊弉冉神(いざなぎいざなみのかみ) いざなぎは誘はるる神 いざなみは誘はるる神 素型異(すがたかたちちが)へども 手をとり逢せ同じ士心(こころざし)(もっ)て 声併(こえあわ)身抱(みあわ)心袷(こころあわ)(なさけ)(むす)べば新しき(いのち)起り(はぐく)みて 世に出産()(たま)へる(くすし)(ほまれ)なるつとめを(もっ)(まこと)(かみ)(みち)発生(おこり)(あゆ)ませ(たま)ひて 神命(しんみょう)(ゆたか)(はぐくま)れ ()の神の御心(みこころ)宿らせ給ひて 目標(めざし)いたる(ところ) 大倭(やまと)(かみ)(みち)


最後の一言を口ずさむと、男はまた空気を裂くように鋭く二回手を打った。

その瞬間、風船が破裂するように靄が中心から弾け散った。散った靄は光の粒になり、やがて空気に溶け込んだ。

最後の一粒が消えた瞬間、のしかかっていた空気が一気に消え去り、その場に倒れ込んだ。


「巫寿ッ」