「神の御息は我が息、我が息は神の御息なり。御息を以て吹けば穢れは在らじ。残らじ。阿那清々し、阿那清々し────」
深く低い声なのに、まるで水面を滑る白鳥のような凛として澄渡る声が響く。
男がパン!と両手を合わせたのと、空気が震えたのはほぼ同時だった。
それはまるで苦しむように耳障りな音で鳴き声をあげる。
靄の輪郭が鉄板の水滴のようにジュワッと弾ける。
それが私の首を絞める力を弱めた。首の拘束が溶けて、床に倒れ込む。
咳き込みながら顔を上げた。
男は宙を舞うようにひらりと手摺から飛び降りてリビングに降り立つ。
男は手首にかけていた紐に通した鈴を手に取るとリンと一振り音を鳴らした。
「……打ち鳴らせる鈴の音に 降り来たり坐せ天鈴鉾神 現世の邪氣は霞雲の如く漂ひ 邪氣に憑り疲れし者は瘴氣を吐く 吐き出されし瘴気は 幾重にも重り合ひ更に巨大く成と異形の者となる 此を鬼と呼ぶ 此に諸々の災ひ追はせしは悪鬼の悪業也 其の身と頭を捕へて離ぬ悪鬼は 此の打ち鳴らせる鈴の音を以て 鎮め給へ」