鎮守の森の桃の花が散って、新緑が芽吹く五月に入った。

連休で学校が休みになって2日目。

1日目は、薫先生が言い残した「課外授業」という不穏な言葉にみんな怯えながら過ごしたけれど、突然呼び出されることも先生の形代が迎えに来ることも無く平穏に終わった。


朝ごはんを食べ終わって、なんとなく共用スペースに顔を出すと嘉正くんがいた。

嘉正くんの前には初等部の一二年生くらいの男の子がノートと教科書を広げてちょこんと座っている。


「嘉正くん、おはよ」

「巫寿。おはよう。ここ座る?」



隣のスペースを指さした嘉正くんに、礼をいいながら腰を下ろした。


「嘉明《かめい》、兄さんのお友達。挨拶して」


嘉正くんにそっくりな嘉明《かめい》と呼ばれた男の子はノートに顔を隠しながら恥ずかしそうにこちらを伺う。


「……宜、嘉明です。初等部の2年生です」

「こら、ちゃんと挨拶しなさい」


困ったように嘉正くんがそう言い、慌てて「大丈夫だよ」と手を振った。



「ごめんね巫寿。弟の嘉明。人見知り激しくて」


嘉正くんにがしがしと頭を撫でられて、嘉明くんは嬉しそうに笑った。

可愛いなぁ、と頬が緩む。


「嘉正くん、兄弟いたんだね」

「実はね。弟ふたりに妹ひとり。すっごく大変だよ。嘉明は泣き虫で甘えただし、来年入学する弟は手に負えないわんぱく小僧だし。一番下の妹はまだ話し始めたばっかりだからね」

「わっ、大家族。でも楽しそう」