いつもならその十秒後に、目の前が真っ暗になって頭がふらっとする────はずだった。
しかし二十秒たっても一分たっても体に異変が起きることはなく、みんなに用意された天狗の残穢も消えることはなくそのまま。
誰も何も気が付かないで、先程と変わらず授業に集中している。
どういうこと……?
手のひらに乗せた小石は、たぶん呪いは祓われている。少なくとも可視できる暗紫の靄はすっかり消えていた。
恐る恐る立ち上がって薫先生の元へ歩み寄れば、先生は不思議そうに首を傾げた。
「どうした巫寿。トイレか? 先生はトイレではありません、なんてんね〜。あははっ」
すかさずそばに居た泰紀くんが「意味わかんねぇよ!」とつっこんでくれた。
自分にはハードルが高いつっこみだったのだありがたい。
「あの、そうじゃなくて。これ、見てもらえますか?」
そう言って小石を差し出すと、薫先生「おっ」と嬉しそうに声を上げる。
「綺麗に祓えてるね。うん、上出来」
「えっ、巫寿上手くいったの!?」
聞いていた皆が集まってくる。
慌ててぶんぶんと首を振って否定した。
「まだ一回だけだから……! たまたまかもしれないし」
「なら、ほい。二回目」
足元にあった小石を拾い上げた薫先生はいつものようにそれに呪いをかけて私に手渡す。