「十二神使は審神者にしか使役が出来ないんだよね? そう本に書いてあったの。でも、今騰蛇は禄輪さんに仕えている……」
「審神者との結びは簡単に断つことはできかねます。しかし唯一、十二神使が自ら君《さにわ》との結びを切り、他者と呪誓《じゅせい》を交わすことで、結びが解けます。私もそうして禄輪の元に下りました」
「呪誓?」
「破れぬ誓いです。誓いを守らねば報いをうけます。それほど効力は強く、確固たる呪いです」
なるほど、審神者は十二神使と「結び」を作って主従関係を結ぶことが出来るけれど、それは妖側から絶つことが出来るんだ。
そして「呪誓」を交わすことによって、別の神職と主従関係を作ることが出来る、ということか。
「どうして志ようさんと結びを切って、禄輪さんの下にくだったの? 呪誓でどんな誓約したの?」
「お答え致しかねます。呪誓に反します」
淡々とそう応える。
「じゃあ……志ようさんはどんな人だった?」
いつも表情の変わらない騰蛇の瞳が僅かに揺らいだ。
しばらくの沈黙の後、騰蛇は口を開いた。
「心のお優しい方です。私に名前を与えて下さいました」
僅かに口角を上げた騰蛇。
珍しいものを見て、目を丸くした。あの鉄壁の無表情を貫いていた騰蛇がこんな表情をするなんて。