「えっと……」


パラパラとページをめくと「十二神使」の文字を見つけて手を止めた。


「十二神使、撞賢木厳之御魂天疎向津媛命《つきさかきいつのみたまあまさかるむかつひめのみこと》を守護する十二の神使を示す。審神者に従い、主従の結びを交わす。鳥の妖朱雀(すざく)、木の妖六合(りくごう)、蛇の妖勾陳(こうちん)、龍の妖青龍(せいりゅう)、天乙《てんおつ》の妖貴人(きじん)……炎と蛇の妖騰蛇(とうだ)


騰蛇……。

そうだ、騰蛇だ。初めて会ったあの日、確かに騰蛇は自分のことを十二神使の騰蛇だと名乗っていた。


「騰蛇……? いる?」

「はい、ここに」

「わっ」


瞬きした瞬間には音もなく私の前に現れた騰蛇。燃えるような赤毛がさらりと揺れて、炎を宿したような瞳が私をみおろす。

いつもの事ながら突然に現れるのにはドキッとさせられる。



「あの、騰蛇は志ようさんに仕えていたの……?」

「志よう、とはどなたでしょう」


思いもよらない返答に目を瞬かせた。


「え? 先代の審神者の名前だよ。騰蛇、知らないの?」


騰蛇が僅かに目を見開いた。



「志よう、さま」



ただ、そう一言つぶやくと目を伏せたまま動かなくなった。

騰蛇……?

急にどうしたんだろう。



「騰蛇? 大丈夫?」


心配しながら顔を覗き込めば、「失礼しました」と騰蛇はいつもと変わらない顔で答えた。

騰蛇の変な態度を不思議に思いながら、同じ質問を繰り返す。


「その、先代の審神者に仕えていたんだよね?」

「ええ」

「でも今は禄輪さんに仕えているんだよね?」

「正確には」



相変わらず多くは答えず淡々とそう言った騰蛇。