「己の中にある言祝ぎが桁違いに強い者しか、その祝詞を言霊にすることは出来ない。私の知る限り、それを言霊にできたのは二人しかいない」
「神修の先生ですか?」
「いや……一人は神修の学生だった。もう一人は────先代のかむくらの社の巫女、奉日本《たかもと》志《し》よう」
ばくんと心臓が波打った。身体中が粟立つ感覚がして、咄嗟に二の腕を押えた。
夢の中に出てきた人だ。
お母さんと一緒に、まだ綺麗だったかむくらの社にいた人。許しを乞うように涙を流していた女の人。
「奉日本、志よう……」
「たった一人しか仕えることのゆるされない"かむくらの社"の神職であり、全ての神職のトップに君臨する審神者《さにわ》になった人だ」
「お母さんと、志ようさんが一緒にいるところを夢で見ました」
「泉寿と志ようが?」
目を見開いた禄輪さんは、詳しく聞かせてくれ、と私の両肩に手を置く。
ひとつ頷き、見た夢の内容を細かく思い出しながら禄輪さんに話した。
綺麗なかむくらの社にいた事、志ようさんは泣いていたこと、許しを乞うていたこと。
志ようさんはお母さんのことを「泉ちゃん」と呼んでいたこと。