「禄輪さん……?」
最後まで残った禄輪さん。きっと私に用があったんだろう。
「巫寿、ちょっとそこに座りなさい」
真剣な目をした禄輪さんはそばにあった椅子を指さした。
不思議に思いながら言われた通りに椅子に座ると、禄輪さんが床に膝を着いて座り私と目線を合わせる。
「困ったことがあったら、私や騰蛇や薫にすぐに頼るよう言っただろう」
それが先日の事件を指しているのはすぐに分かった。
「……ごめんなさい」
「どんなことでもいい。私は君の親代わりだ、何かあったら一恍と泉寿に申し訳が────」
そこまで言った禄輪さんが口を閉ざして「いや」と首を振り、
「申し訳が立たないのもそうだが、私が心配なんだ」
そう言う。
「まだこちらの世界を知ったばかりだ。知らないことも出来ないことも多いだろうし、知らずに危険なことに巻き込まれることだってある」
禄輪さんの言う通りだ。
通っている学校のことですら、まだちゃんと分かっていない。自分が何者なのか、この力がなんなのか。
知らないということは、危険なことに巻き込まれていても気がつけないということだ。
ごめんなさい、もう一度そう謝れば禄輪さんは私の肩をぽんと叩く。