泰紀くんと慶賀くんが方賢さんに必死に手を合わせて頼み込む。

そんな二人を見て、深いため息をついた。


「分かりました。今日はもう行ってよし。集中力が切れると、何事も捗りませんからね。まあ貴方がたの場合、初めから集中していませんでしたが……」


その途端、「やりぃ!」と叫んだ二人は、辛うじて作業していた書物を適当に机にどさりとおいてかけ出す。

しかしきゅっと足を止めて振り返った。


「禄輪禰宜、早く!」

「私は用があるから、先に行ってなさい」

「すぐに来てよ!? 絶対だからね! 演習場の白砂のところに集合だから!」



はいはい、と苦笑いで「先に行ってろ」と手を振った禄輪さん。

二人は先程の勢いで駆け出して行った。


「すみません、方賢さん。明日は真面目にやります」

「すみません!」


来光くんと嘉正くんも、あの二人よりかは心做しか丁寧に作業中だった書物の塔を整えてどたばたと文殿を出ていく。


「君ももう行っていいですよ、恵衣さん」

「はい」


割り振られた場所はもう片付いたらしく、恵衣くんは最後の一冊を棚へ戻すと一礼して歩いていった。


また深くため息をついた方賢さんはやれやれと首を振って戻って行った。