「全く関係がなかったにしろあったにしろ、嬉々先生はあそこで何をしてたんだろうね」

「────なんだ、嬉々先生の噂話か?」



第三者の声に皆が振り返った。


「禄輪禰宜っ!」


目が会った瞬間、禄輪さんは目尻に皺を寄せて笑う。

座っていた机から飛び降りた慶賀くんが禄輪さんに飛び付いた。


「こら慶賀! 狭い通路で飛び付くんじゃない」

「ねっねっ、禄輪禰宜稽古つけてよ! 俺最近、鈴振祓の練習始めたんだ、稽古つけて!」

「あ、ずりぃぞ慶賀! 禄輪禰宜、俺も!」

「ぬ、抜け駆け反対……! 僕もお願いします!」


あっという間に皆に囲まれた禄輪さんは困ったように「落ち着け」とみんなを宥める。


「それはいいが、お前たち罰則の文殿掃除の最中だろう」


あ、と思い出したように床に積まれた書物の塔を見下ろす。

げえー、と顔を顰めた皆。


その時、こほんと咳払いがして振り返ると文殿の管理人である方賢《ほうけん》さんが呆れ顔で腕を組みこちらを見ていた。


「本当に貴方がたは困ったものですね……」

「方賢さん、もういいでしょ!? 俺らすんごい頑張って片付けた!」

「嘘おっしゃい。形代に見張らせていたから知っていますよ、頑張っていたのは恵衣さんだけでした」

「そこをなんとか! 頼むよ方賢さーん……」