開放された来光くんはケホケホと咳き込みながら真剣な顔で私を見た。
「嬉々先生が、いたんだよね?」
「うん……確かに、あの声は嬉々先生だったと思う」
「その嬉々先生だよ」
え? と皆が怪訝な顔をする。
「嬉々先生が神修の学生だった頃、先生の言霊が暴走してクラスメイトを呪殺《じゅさつ》してしまった事件があったんだって。その死んだ生徒を慰める為の小さな祠を、まねきの社の敷地内に作ったって、聞いた頃があるんだ」
呪殺……文字の通り呪い殺すという意味だろう。
嬉々先生がクラスメイトを呪殺した?
しばらくの沈黙のあと、ぶっと吹き出したのは私以外の皆だった。
「そんなことあるわけねぇじゃん! あほだな来光っ!」
「なっ、だから噂だって前置きしたじゃん!」
「深刻な顔で話し始めるから、何かと思ったよ」
「なんだよ嘉正まで!」
不貞腐れた来光くんはそっぽを向いて唇をとがらせた。
「ごめんって来光。ただ、もし神職が言霊で同胞を傷付ければ、それは神社本庁が定める神役諸法度《しんえきしょはっと》に触れる行為だから、普通なら言霊の力を封じられて日本神社本庁から籍を外されているはずだよ」