「……薫先生」
「なに? だってあいつ、いじりがいがあって面白いんだもん」
「だから嫌がられるんですよ……」
苦笑いでそう言った。
陶護先生と薫先生は年が二個違いで、薫先生が先輩にあたる。先生たちが学生だった頃、中高と寮が隣同士だったらしく、それはそれはよく「仲良くしていた」のだとか。
呪いをかけられたり、人形を試すための相手をさせられたり、よく分からない漢方薬を飲まされたり、悲惨な学生生活だったらしく、あの人がずっと苦手でした、と語る陶護先生の目はいつも死んだ魚の目をしていた。
学生時代から苦手意識がある薫先生が保健室に来る時、決まって少し前に窓から逃げ出そうとする陶護先生。
しかし、決まって逃げようとするタイミングで薫先生がやってきては捕まる。
無事に逃げ出すことが出来たとしても、先生の使役する妖狐に首根っこを加えられて連れ戻されるのが定石だ。