「────……お母さん」


自分のそんなつぶやきと共に目が覚めた。見慣れた白い天井と薄緑色のカーテン。

カーテンの向こうでカシャンと椅子がゆるれ音がして、数秒後にカーテンが開いた。



「巫寿さん? 目が覚めたんですね」



この学校では珍しく、白衣《はくえ》ではなく白衣《はくい》を身につけた男性。

猫っ毛の髪に少しあどけない顔立ちの、人懐っこい笑みを浮かべるその人は、この学校の学校医である八色陶護《やくさとうご》先生だ。



「陶護先生……」

「起きれますか? 他に痛むところは?」



4月から定期的に保健室にお世話になっていて、すっかり顔なじみになった。

ぼんやりする頭で、おでこがじんじん痛むのに気がついた。

前髪の上からそっと触れると、熱を持って腫れている。顔をひきつらせると、陶護先生が手を伸ばして前髪をめくる。


「倒れた時にぶつけたんでしょうね。血は出ていないので、氷で冷やして様子を見ましょうか。気分が悪かったりは?」

「えっと……ないです」

「良かったです。それにしても、今回は中々に長く眠ってましたね」



氷を用意しながら、陶護先生はそう言う。