力いっぱいに息を吸い込めば、お腹のそこに力が宿った。
「────……ッ、天清浄《てんしょうじょう》 地清浄《ちしょうじょう》 内外清浄《ないげしょうじょう》 六根清浄《ろっこんしょうじょう》と 祓給《はらいたま》う」
そうだ、これは天地人の全てを浄化する祝詞。
これは、癒しの言霊。
「天清浄《てんしょうじょう》とは 天の七曜《しちよう》 九曜《くよう》 二十八宿《にじゅうはちしゅく》を 清め 地清浄《ちしょうじょう》とは 地の神 三十六神《さんじゅうろくじん》を 清め 内外清浄《ないげしょうじょう》とは 家内三宝《かないさんぽう》 大荒神《だいこうじん》を清め 六根清浄《ろっこんしょうじょう》とは 其身《そのみ》 其體《そのたい》の 穢《けがれ》を 祓《はら》い給《たま》へ」
前にも、同じ事があった。
残穢が溢れかえって、次々とたくさんの人が倒れた。
人も妖も、沢山傷つけられた。皆が深い悲しみのそこで、苦しんでいた。
まるでそうするのが当たり前のように言葉が溢れる。
自分の体じゃないみたいだ。
自然と唇が言葉を紡ぐ。
「清め給ふ事の由《よし》を 八百万《やおよろず》の神等 諸共《もろとも》に 小男鹿《さをしか》の 八《やつ》の御耳《おんみみ》を 振立《ふりた》て 聞《きこ》し食《め》と 申す────」
床に縫い付けられたかのように動かなかった体が、いとも簡単に動いた。
まるであやつり人形にでもなった気分だ、自分の体なのに他人事のように思えた。
ふわりと動いた両腕は胸の前で鋭い柏手を打った。