す、と背筋を伸ばして深く息を吸った。


「────神火清明《しんかせいめい》 神水清明《しんすいせいめい》 神風清明《しんぷうせいめい》。神火清明 神水清明 神風清明」


二度唱え、鳥居の奥を強く睨んだ。


「神火清明 神水清明 神風清明!!」


左、右、左、と短く息をふきかけたその瞬間、空気を暗紫にしていた残穢がふっと晴れた。

あ、と歓喜の声をあげるまもなく、奥から流れ出す濃い残穢によって、また黒い靄が渦巻く。


「なッ、際限無しかよ! くそ、どうしたら……ッ」



その瞬間、バリ、と乾いた音がすぐそばで聞こえた。


え、と目線をあげると、宙を舞った何かがひらりと私の頬を撫でて床に落ちた。

鳥居の奥を封じていた護符だ。


バリバリバリ、とまるでその一枚に釣られたかのように護符は真二つに避けて床に舞い落ちる。



次の瞬間、全身が粟立つ感覚とともに、強い風圧のようなものでで体が突き飛ばされた。

喉を縄で締められている感覚に、悲鳴はでず呻き声だけが響く。


立っていた泰紀くんもその圧力に耐えきれず体が数メートル後ろへ飛んだ。

激しく背中を壁にうちつけて、廊下に倒れ伏せる。


「……っ、たい、き……くんッ!」


名前を呼んだが返事はなかった。


鳥居の奥から、何かが流れ出るような激しい音がする。通風口に耳を当てているようだ。

廊下に押し付けられるように重い何かが全身にのしかかる。指一本ですら動かせなかった。