私に毛布をかけてくれたあと、玉じいも眠ったらしい。
自分も布団で横になろうと立ち上がり、まだ制服だったことを思い出す。
着替えなきゃ、と立ち上がり、自分の部屋ではなかったことを再び思い出す。
小さくため息をこぼして暗闇に慣れてきた目でスクールバッグを手繰り寄せた。
……一旦部屋に戻ろうかな。お兄ちゃんの保険証も探さなきゃ。パジャマも看護師さんから必要なものリストを貰ったからそれも確認しなきゃ。そのあと、またここに戻ってこよう。
今日はあの広い家で一人になりたくない。
キシキシと音を立てる廊下を抜けて外に出ると、肌を貫くような冷気に肩をすくめた。
分厚い雲の間から、鈍い月明かりが差している。
雪が解けて凍った外階段を、氷のように冷たい手すりに捕まりながらのぼる。
耳鳴りがするほど静かな夜だ。
スカートのポケットから鍵を出してかちゃりと開ける。外ほどは寒くないけれど、お兄ちゃんの居ないこの家はどことなく冷たい気がした。
靴を脱いで廊下を歩きながら、ぱちぱちと部屋の明かりを付けていく。
最後にリビングの灯りをつけて、ほうっと息を吐いた。
一人きりは心細いけれど、やっぱり我が家は落ち着ける。