五十代にも関わらず無精髭が似合うちょいワルな雰囲気のこの男性は、「神職漢方学」担当の来生豊楽《きすぎほうらく》先生だ。
豊楽先生は少し呆れたように私たちを見下ろして笑うと、薬研の中のすり潰した薬種をひとつまみ舌の上で転がす。
「よし、巫寿くんはそこの御種人参をすり潰して、慶賀は生姜《しょうきょう》と竜骨《りゅうこつ》を棚から取ってきなさい」
「竜骨? どんなの?」
「見たらわかるさ」
そう言って白衣の懐から襷を出した豊楽先生は楽しげに舌なめずりすると、慣れた手つきで袖をたすき掛けにした。
「あとは、牡蛎《ぼれい》を一杯半、茯苓《ぶくりょう》を少々」
薬包紙に載せた粉末を次々と手早く薬研でひいていく豊楽先生。
「先生あったー!」と慶賀くんが持ってきた、その名の通りまるで竜の骨のような石を砕いて入れる。
「何作ってんのー?」
「よし、じゃあ慶賀が飲んでみるか」
ニヤリと笑った豊楽先生は完成した漢方薬をぬるま湯に溶いて慶賀くんに手渡した。
ふたりして湯のみの中を覗き込むと、中には琥珀色の液体がたぷたぷと波打つ。
ごくりと唾を飲み込んだ慶賀くんが一息に飲み込む。
少し緊張しながら反応を伺う。
「ど、どう……?」
「不味くは、ない……? 美味くもないけど。あッでもなんか腹の底がポカポカしてきたかも! 巫寿も飲む?」
渡された湯呑みを受け取った。